筆頭論文が採択されました
2025年1月8日
研究の背景
孤独感は青年の精神的な健康の悪化を予測する要因の1つとされています。COVID-19の感染拡大に伴い各大学は大学閉鎖という措置をとってきました。大学閉鎖は当然ながら大学生の上下や横の対面でのつながりを断つことになるため,各大学は孤独感増加のリスクを予測し,オンラインでの交流を増やすという代替策をとってきました(あるいは,取らざるを得なかった状況でした)。しかし,大学閉鎖という状況があまり例を見ない事態であり,実際にそのような閉鎖状況であってもオンライン交流が孤独感の低減に寄与するのかどうかは不明でした。
研究の内容と成果
本研究は、2021年に日本国内における60の大学から計4,949名の学生を対象とした調査を実施し,部活動やアルバイトといった社会的環境,対面とオンラインでの交流頻度、全体的な健康状態,そして孤独感の学生レベルのデータと大学閉鎖の有無という大学環境のデータを収集しました。変数間の関連性を全体的に明らかにする方法である心理的ネットワーク分析を行ったところ,大学閉鎖の有無によって学生レベルのデータのつながりが異なることが分かりました。そこで,変数間の因果的な仮説モデルをデータに基づき生成することができるベイジアンネットワークによる有向グラフの推定をおこなったところ,大学が閉鎖されている場合,オンラインでの交流は孤独感の低減にほとんど効果を示さず,対面交流が孤独感を低減することが確認されました。また,閉鎖された場合は,大学の社会的環境(例えば、クラブ活動やアルバイトなど)の経路が断絶され,孤独感を間接的に高めている可能性も示唆されました。
今後の展望
今回の研究結果の解釈にあたっては,因果関係の「仮説モデル」であり因果関係の特定はできないこと,オンライン交流の「頻度」を扱っており質的な側面については未検討であること,に注意が必要です。それでもなお,大学閉鎖時のオンライン交流と孤独感の関連を調べた研究はこれまでにほとんどなく,本研究よりオンライン交流頻度は大学閉鎖の状況であると孤独感をあまり低減しない可能性が明らかになりました。COVID-19のような感染拡大により,大学などの機関を閉鎖せざるを得ないことは今後も予期されます。本研究の成果は,そういった状況での孤独感の予防策の検討に対する実証的データに基づく示唆を与えています。さらに本研究は,社会的な環境とのつながりの断絶は孤独感を高めることも示しており,緊急時だけではなく普段より大学生の孤独感に対する社会的支援方法の検討が必要であるといえます。
図1.孤独感に対する各変数の影響を推定した仮説グラフ
<論文タイトル>
Can online interactions reduce loneliness in young adults during university closures in Japan? The directed acyclic graphs approach.
本成果は学術雑誌Asian Journal of Social Psychologyへ掲載されます。