
高校生を対象としたユニバーサルプログラム(MIRaESプログラム)がChildren and Youth Services Review誌に掲載されました!
2025年7月1日
日本の定時制高校生におけるうつ病症状を軽減する新しい学校ベース予防プログラム「MIRaES」
この成果は以下のニュースサイト、ポータルサイトで掲載されています。
大学英語トップページ
https://www.doshisha.ac.jp/en/index.html
研究グローバルサイト
https://research.doshisha.ac.jp/news/news-detail-78/
EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1088586
同志社大学、久留米大学、広島大学との研究チームにより、日本の定時制高校生におけるうつ病症状の予防を目的とした画期的な学校ベースプログラム「MIRaES(ミラエス)プログラム」が開発され、その効果と実現可能性を検証しました。 この研究成果は、これまで効果が限定的であった普遍的な学校ベースのうつ病予防プログラムに新たな可能性を示すものです 。
研究の背景と課題
思春期は、将来の進路や自己の確立といった大きなストレスに直面し、うつ病症状を発症しやすい時期です。特に日本の定時制高校生は、全日制の生徒と比較してうつ病症状や認知の非柔軟性が高く、社会スキルに自信がない傾向にあることが先行研究で示されています。しかし、これまでの普遍的な学校ベースの予防プログラムは、学んだスキルの日常生活への応用が不十分であったり、学校の状況に合わせた内容になっていないために、その効果が限定的でした。
MIRaESプログラムの特徴
研究チームは、これらの課題を克服するため、以下の2つの視点を重視してMIRaESプログラムを開発しました。
学んだスキルの学校環境全体への汎化:
長期・低頻度介入: 1年間にわたる12回のセッションを、数カ月に一度のペースで実施することで、生徒がじっくりとスキルを習得し、定着させることを目指しました。短期間の介入ではスキルの定着が難しいという課題に対応しています。
教員との連携強化: 心理学の大学院生と学校教員が共同でプログラムの指導・促進にあたることで、教員が日常的に生徒と関わる中でスキルの応用を促し、学習効果の汎用性を高めます。教員の負担軽減のため、指導計画の共有や事前事後の打ち合わせも実施されました。
個々の高校の文脈に合わせたプログラム内容の調整:
定時制高校生の特性に合わせた内容: 事前に行った調査で明らかになった定時制高校生特有の社会・認知特性(社会スキルの低さ、認知の非柔軟性など)に基づき、「アサーション・トレーニング」「認知再構成」「怒りのマネジメント」「問題解決」の4つのモジュールを設定しました。これにより、生徒の具体的なニーズに合致した内容を提供します。
生徒の理解を促す工夫: 各セッションは100分で、心理教育、個人ワーク、グループワーク、宿題を組み合わせた段階的な構成を採用。高校生が共感しやすい漫画を用いたり、教員がロールプレイをすることで、心理的抵抗感を減らし、内容の理解を深める工夫が凝らされました。
研究成果
本研究では、120名の日本の定時制高校生を対象にMIRaESプログラムを実施し、うつ病症状や社会スキルなどの変化を測定しました。その結果、以下の点が明らかになりました。
うつ病症状の悪化抑制効果: プログラムに頻繁に参加した生徒はうつ病症状が悪化しなかったのに対し、参加頻度が低かった生徒ではうつ病症状が増加する傾向が見られました。これは、MIRaESプログラムがうつ病症状の悪化を防ぐ可能性を示唆しています。
感情制御スキルの維持・向上: 参加頻度の高い生徒は「リラックス」「コントロール」「イライラ」「感情」といった感情制御に関連する言葉を自由記述で多く使用しており、プログラムを通して感情制御スキルを意識し、実践していることが示唆されました。一方、参加頻度の低い生徒では感情制御能力が低下する傾向が見られました。
日常生活へのスキルの適用実感: 参加頻度の高い生徒は、自由記述において「日常生活」という言葉を多く用い、学んだスキルが日常生活で役立つと認識していることが明らかになりました。
結論と今後の展望
今回の研究は、日本の定時制高校生向けに開発されたMIRaESプログラムが、うつ病症状の悪化を抑制し、特に感情制御スキルの維持に貢献する可能性を示しました。学んだスキルの汎化と学校の文脈に合わせた内容調整という2つの視点を取り入れたことが、プログラムの有効性に繋がったと考えられます。
今後は、対照群を設けた比較研究や、教員による客観的な評価、欠席傾向といった行動指標の導入、複数の学校での検証を通じて、プログラムの有効性をさらに確かなものにしていく必要があります。また、プログラム内容をさらに改善するために、生徒や保護者、学校関係者との連携を強化し、行動活性化といった新たな視点を取り入れることも検討されます。
MIRaESプログラムは、普遍的な学校ベースの予防プログラムが抱える課題を克服し、日本の高校生のメンタルヘルス向上に貢献する新たな介入モデルとして期待されます。